時が止まる原因は、短期記憶
- 北林陽児
- 6月21日
- 読了時間: 3分
前回、前々回と、時の流れが止まる現象、心の成長が止まる現象に書いてきましたが、ではそのような現象が起きるのは何故なのでしょうか?
トラウマがあるとどうしてそのような現象が起きてくるのでしょうか?
様々な説明の仕方が可能だと思うのですが、短期記憶と長期記憶という脳の仕組みによる説明を試みてみようと思います。
みなさんも短期記憶と長期記憶という言葉は聞いたことはあるのではないでしょうか。
短期記憶とは現在進行中の出来事について、一時的に保存されている記憶で、長い期間に渡って記憶できず、少ない情報量しか記憶できません。ただし、思い出すことは簡単というか、つねに意識に上っているような状態になります。
これに対して、長期記憶は、長い期間に渡って、大量の情報を記憶することができます。ただ、通常時には意識では忘れた状態で、思い出すにはちょっと時間がかかります。
私たちは、現在の活動をする中で諸々の出来事は、いったん短期記憶に保存されます。
そして、その出来事がひと段落つくと、重要な情報は長期記憶へと移動して保存されて、どうでもよい情報は忘れられることとなります。
この仕組みを、仕事場で例えるならば、短期記憶は机の上、長期記憶は引き出しとか本棚のようなものです。
何か書類が送られてきたとして、まずは机の上で読んで検討するでしょう。しかしそれが終われば、ゴミ箱行きか、引き出しで長期保存するかを選択することとなります。
心的な処理が正常に行われている場合には、忘却または長期保存への選別と移行のプロセスはちゃんと行われます。
覚えておきたいのに忘れてしまったということは起こりえますが、忘却または長期保存のどちらかの選択は実行されています。
さて、ここで、トラウマ記憶はどのようになっているかというと、ショックが大きすぎて心的な処理においてエラーが発生して、忘却または長期保存のどちらも選択されず、短期記憶として残り続けるということが起こります。
また、短期記憶は、現在進行形で処理している情報だけが保存される場所です。
従って、客観的・物理的には過去のトラウマ体験の記憶であっても、そこに保存されている情報は「現在進行中のこと」として私たちは認知します。
つまり、10年前の出来事であれ、20年前の出来事であれ、「現在進行中のこと」として感じられるということです。
通常通りの忘却または長期保存の次の情報処理のプロセスに進んでいないので、心の中ではその出来事はずっと現在進行中のステータスで残り続けるわけですね。
その出来事は、大きなショックを受けるような重要な出来事で、ありそれが現在進行中なわけですから、心はその出来事のことを常に考える必要が生じます。
このようにして、時の流れが止まる、心を過去に捉われるという現象が起きるわけですね。
さきほどの仕事場の例えで言うならば、もう読み終わった過去の手紙がずっと机の上にのっていて、現在の仕事をしていても、常に視界に入ってチラチラし続けるということになります。
そして、そういう手紙の数がやたら多いとか、ポスターのように大きいために、机に占有する割合が大きい場合には、心の成長が止まるということも起きてきます。
こういう感じで説明すると、時の流れが止まる、あるいは心を過去に捉われ続けるというような現象を、理論的に理解できるかもしれませんね。
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