投影という臨床心理学の用語をご存じでしょうか?
これは、自分自身が持っている要素を、他人の中に見出すということです。
ちょうど、プロジェクターで映像をスクリーンに映し出すのと同じように、自分自身の在り方を他人に映し出して、他人のことを解釈するということです。
これはつまり、他人との関りにおいて、その他人を見ているようでいて、実は実際に見ているのは自分自身のことだということです。
ちょっと何を言っているのか?と思った人も中にはいると思います。
例えば、Aさんが、Bさんのことを「あの人は嘘つきだ」と言って批判したとします。
この場合、実はその批判をしたAさん自身に嘘つき要素があって、それをBさんの中に見出している、つまり投影しているわけです。
逆に言うと、人は、自分自身が持っていない要素と言うものは、人の中に見出すことはできません。
つまり、自分自身が嘘をつかないCさんは、Bさんが嘘つきだとは気づかない、あるいは気づいたとしても別に怒らないのです。
これは特に、自分自身が持っているとは認めることのできない資質を、人が持っているものとして転嫁してしまう形で良く発生します。
これはつまり、Aさんはしばしば嘘をついてしまうのですが、その事実を認めることはできていなくて「私は嘘なんてつかない」と考えています。
だからこそ、他人であるBさんに「嘘つき」という自分の資質を見出して批判します。
では、このAさんは自分自身が嘘つきだという問題を克服するためにはどうしたら良いでしょうか?
それは、自分が嘘つきだという事実を認めて、嘘をつきたいという気持ちと向き合い受け入れていくことによって、その気持ちは解消されてゆきます。
この自分自身の中にある自分にとって都合の悪いもの、隠したいもの、否定したいものと向き合って受け入れていくことこそ、心理療法の本質と言えるのですが、なかなか困難なことでもあります。
だって、自分が嘘つきだという事実と向き合うなんて、辛く苦しいことではないでしょうか?
辛くからこそ、嘘つきなのは自分ではなくて、他人が嘘つきなのだと投影して自分の心を守っているわけです。
ですから、自分自身の悪い側面と向き合って成長するためには、それなりの覚悟や、カウンセラーのような人の支援が必要となるわけです。
そういう覚悟や支援があれば、実は投影の仕組みを逆手にとって役に立てることもできます。
日常生活の中で、誰かと関わって嫌なことがあって、「あの人は〇〇だ」と批判したくなったとします。
批判したくなったということは、その「〇〇」という資質は実は自分自身の中にも必ずあるわけですから、そこでヒントを得て自分の中の「〇〇」という資質と向き合うわけです。
つまり、いわゆる「他人は自分の鏡」ということなのです、鏡を見て髪型が整っていなければ整えるのと同様に、他人という鏡をみて整っていないところを見つけたら、自分自身を整えるということです。
これは本当に有効な方法で、嫌なこと不愉快なことが起きるたびに成長していくことができます。
ただし、難易度が高いというのもまた事実です。
だって、「アイツのせいで不愉快だ」と思って批判している状況から、その批判の矛先を自分へと向けて、認めたくない自分の醜さを認めるわけですからね。
例えば、この記事のAさんの事例として「嘘つき」という要素を挙げたわけですが、これだって投影が起きているのです。
Aさんという架空の人物に持たせる「〇〇」という悪い資質に、私は「嘘つき」を当てはめたわけですが、それは私の中にその要素があるからに他ならなりません。
自分の中に全く存在しない要素をここに当てはめることはあり得ません。
過去に嘘をついたことを後悔したり、責めたり、恥ずかしいというような様々な思いがあるからこそ、わざわざここで「嘘つき」と言う要素を選択して記事を作っているわけです。
逆に言えば、自分の中のそういう思いがエネルギーとなって、記事を書くことができるとも言えます。
別に意図したわけではありませんが、同時に、多くの人に読まれているこの場でわざわざ記事にするという行為が、「自分と向き合う」と言う意味ももってくるでしょう。
こんな感じで、Aさんという人物に対して自分が何を投影し、何を見出したかを客観的に捉えて、そこから自分が向き合う要素を見つけ出したわけです。まさに鏡ですね
これは、心理的な負担の重い作業なので、自己肯定感の低い人にはあまりお勧めできないかもしれませんね。
順番として、自己肯定感が低くて傷ついている人は、まずその傷を癒すこと。
傷が癒えた次のステップとして、成長を目指すときに役立つ考え方かもしれませんね。
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