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移植手術で、記憶が引き継がれる現象

執筆者の写真: 北林陽児北林陽児

更新日:2023年10月4日

前回のブログでは、心は体全体に宿っているのだという内容を書きました。


今日は、その続きというか関連で、「記憶はどこにあるのか?」というテーマで書いてみましょう。


もちろん、一般的には、記憶は脳の中に貯蔵されていると考えられていて、常識的に言って、異論はないのではないかと思います。


ところが、その常識に反する現象として、「記憶転移」という現象があることはご存じでしょうか?


記憶転移とは、臓器移植を行った際に、臓器提供者の記憶や性格の一部が、移植された人に転移するという現象のことです。


有名な事例としては、クレア・シルビアというアメリカ人女性のものがあり、心臓と肺の同時移植を受けて以降、嗜好や性格が変化したことに気づいたそうです。


具体的な変化としては、


・苦手だったピーマンが好物になり、ファーストフードが嫌いだったのにケンタッキーのチキンナゲットが好物になった。


・歩き方が男のようになり、静かな性格から、非常に活発な性格へ変化した。


・夢の中に出てきた少年の名前を知っていて、彼が臓器提供者だと確信した。


といったようなことがあったそうです。


その後彼女は、提供者の家族に会うことは禁止されているのですが、新聞の死亡事故記事から家族を突き止めて、対面したそうです。


その結果、上記は全て提供者に該当する特徴で、高校に通いながらバイトを3つかけもちする活発な少年であったとのことです。


当然ながら、このような事例をもって「記憶は、臓器に貯蔵されている」とするには無理があって、様々な反論が可能です。


まず、そもそも、臓器移植自体は、世界中で行われていますが、クレアのような記憶移転が必ず起きるというわけではありません。


従って、少なくとも、心臓に性格、肺に記憶・・・というような対応関係の中で宿っているということはありえないと思われますね。


また、意図的な嘘をついてはいないと仮定したとしても、心臓と肺の移植という大きな手術を経験したことで大きな心境変化が起きたとか、虚偽の記憶を作り出してしまったという可能性も考えられます。


ともあれ、このようなクレアの経験がどのようにして起きたか、ということは科学的には何もわかっていません。


では、このことについて、心理療法家として私がどのように考えているかというと、「まあ、十分あり得ることだよね」という感想です。


心理療法のセッションをやっていると、クライエントの感情や性格がこちらに伝染してきて、自分もそういう感情や性格になってしまうということが、たまに起こります。


セッション後に、本来の自分にはない思考や行動や感情を持っている自分に気づいて、おかしいなと思ってよく考えてみると、さっきのクライエントそっくりだ・・・ということがあるわけです。


これは、未熟なカウンセラーが頑張ってやっているうちに、自分も心を病んでしまうという現象と同じです。


熟練してくるとそのような現象を起こさないようになると同時に、発生しても自分で気づいて解消できるようになります。


こういう現象は、「被り(かぶり)」とか「もらう」などと言われたりするのですが、対面セッションでなくても、Zoomセッションでも発生しますし、セッションなどで会うことすらなくても、発生することもあります。


クレアの事例などに見られる記憶転移の現象は、臓器移植をきっかけとして発生した「被り」の現象であると考えれば、特に不思議なことではありません。


これはもう少し、詳しく説明したいところですが、今日はこれくらいで終わっておきましょうか・・・。


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